MIU404で考えるSNSという存在2020-08-29

インターネットはオタクが使うもので世の中が進んでもインターネットが必需品になるなんてことは、21世紀に入ってからも考えられていなかった。それが今では殆どの人がスマホをいじっていて、スマホ決済があちこちの店で使えるようになっていて、メジャーなウェブサービスはみんなが知っている前提で話が進むことが多い。ITの仕事をしていると自分の仕事の話をする時「この人は何をどこまで知っているのだろうか」と考えると面倒になって結果適当な説明で誤魔化してしまうことは多いけれど、それは逆に自意識過剰なだけで話してみたらそれなりに分かってくれたりすることも多い。そうでもないこともあるけど。

TBSで金曜日にやっているMIU404が面白い。

今10話まで進んでいて来週で最終回。
10話目はSNSを利用したパニックが起きる回なんだけど、ネットを仕事にしている人から見たら引っ掛かる描写があった。
ウェブサイトが高負荷で503 Service Temporarily Unavailableを戻していたのだけど、設定していたカスタムエラーページのファイルを用意し忘れていたので、404 Not Foundが出ていたというのだ。
あれ?カスタムエラーページ無いと漏れなく404になるんだっけ?と思って試しにこのサーバーでやってみた。503エラーは起こせないので403で代用した。

Forbidden
https://tobuse.net/miu404/

表示されるメッセージは

Forbidden
You don’t have permission to access /miu404/ on this server.
Additionally, a 404 Not Found error was encountered while trying to use an ErrorDocument to handle the request.

403なんだけど、ErrorDocumentが見つからないよという追記がつく。
ドラマのエラーページはデザインが違っているのだけど、ルール的にはメインのエラーを出した上で補助的にアナウンスするのが基本的な仕組みなので、404が出たというのはちょっとおかしい。

とはいえそれだとタイトルのMIU404に掛からないし、きっとそのくらいの違和感は他でも沢山あるので個人的に少し気になっただけな話。そんなことどうでもいいくらい話はよくできているし、SNSに関する描写はすごくリアルだ。

10話では乗っ取られたPCからフェイクの犯行予告が送信され、実際にその犯行が起きたかのようなSNS投稿が多数行われ、ハッシュタグのトレンド上位を独占する。現実には何にも起きていないんだけど。
SNSで本当かどうか分からない話題が流通したり、良かれと思って拡散される現象がとても上手く使われていて、誰しも少しは知っていたり経験していることなので、カスタムエラーページ用意し忘れたエラーなんかよりも何倍もリアルだ。


菅田将暉が主演した3年A組でも同じようにフェイクに踊らされるSNSユーザーを沢山映し出した。MIU404で大きく異なる点はSNSユーザーのハンドルネームに本名と思われる名前が出てきていること。今まではニックネーム風だったりふざけた名前だったりで、どちらかというと無責任な匿名ユーザーという見え方を意識していた。3年A組だと「俺の中のワイ」が個人的なヒット。言葉に責任もってそうには思えない。

それがMIU404では普通にいそうな漢字表記の名前が混じるようになっている。現実のSNSでも身元明かした状態でよくそんな適当なこと言えるよね、みたいな人は少なくない。

9話では人探しをするのに「写真の知人が行方不明です。#情報求む #拡散希望」という、情報提供先が警察などの公的機関や身元が分かっている先じゃない限り協力してはダメな手口が使われている。現在でも拡散される度に注意喚起が出るけれど、借金踏み倒して逃げた人なんかを探す手口として使われているらしい。そんなやり方を「親切な人が教えてくれる」と表現していて、ネットの問題=匿名の中傷 だけじゃないことが提示されている。誰にでも分かる深刻な問題だ。

名前を明かした上で、フェイクに踊らされて、親切心で拡散する人々。

10話の最後には、#MIU404で情報が拡散される映像が流れて、番組を見ながらスマホ片手に実況している人の画面とテレビが同じになるという状況を作り出した。
ネットやSNSはITの括りでシステムエンジニアの仕事の領域ではあるのだけど、そういった状況なんかを考えると、どちらかというと社会の病理みたいなものなのかも知れない。使っている仕組がたまたまITなだけで、決済処理をしたり在庫の数量を更新するシステムなんかとは全然別の分野だ。HTTPプロトコルは依然として1.1がメインなんだけど、アプリケーション層の利用のされ方はどんどん変わってきているし、問題が起きる原因の一部には人間が本来的に持っているバグがある。

脚本の野木亜希子さんはツイッターを頻繁に更新していて、ドラマの放送前と後には何かしらの投稿をしている。3話の最後の最後で発表されていなかった菅田将暉が登場することを漏らさず事前にリアタイ推奨しているのは、ネットの親切くんがネタバレしてくることを察知してのことだと思うと、それはそれで手のひらの上で転がされている感じもする。

吉祥寺は勝手に始まって勝手に終わる2020-08-04


今キラリナのビルはファミコンゲームでおなじみの廃墟だった期間が長く、夏なら肝試しするような不届き者もいたりして、つまり駅直結の廃墟があったような場所が吉祥寺なわけです。
キチムの建物の一階は小さな店の寄り合い所帯みたいな場所だったのが子供服の店になって今は空いている。KuuKuuの入っていた建物だった頃は同じ通りにルボンビボンの建物くらいしかなくてNTTの所まで来て本当にこの道で会っているのか不安になって引き返す人を大勢見た。今はもっと店が増えてこの周辺に住んでいる人にとっては、随分にぎやかになっただろうなあと想像する。キチムでさえライブの後は静かになんて貼り紙出してたのは目撃した。

住みたい街で取り上げられて有名になったことで吉祥寺に行くことが目的の人が増えて、それを目当てにしたお店も増えた。住んでいる人にとっては休日のランチ難民化が進んだのだけど、それでも経済が潤うということには良い面もあるし、土日にぎわう店を平日スカスカな時間に楽しめるなんてこともあった。景気の波に左右される部分もあるし、外国人だけじゃないインバウンド需要という存在も見えたりして、地元だけで回せないお店は辛いし、地元だけで回す予定じゃない店にとってはもう全然計算違いだし、不動産やコンサルや内装屋さんなんかは回転あがって喜ばしい面もあるのかも知れない。

情報消費として吉祥寺の新規開店閉店情報でアクセス稼いでいるところも、美味しい状態ですねなんて気持ちで眺めてたりして、頻繁に変わってくれるカタログさえ自分で触ることなく、そのお知らせだけで飯が食えれば、そりゃあ楽でいいですよね、なんて思ったりする。ちっとも羨ましくないけど。

吉祥寺っていいところだなあ。

食通っぽい定型表現に引っ張られる食事のイメージ2020-08-03

横丁角の吉田のおばあちゃんが作る浅漬けが美味いという話は、誰だよそれ知らないよとなるけれど、京都祇園の会員制バーで「ぶぶ漬けとは違いますので」なんて言われてそっと出してくれる浅漬けが美味いという話はグルメっぽい。その浅漬けが吉田のおばあちゃんが作っているのだとしても。浅漬けの味は関係なく、文章表現の話だ。

ブログやSNSが普及して誰でも文章をネットに出せるようになった。とはいえ書く話題なんてそんなに沢山あるわけもなく、食事のレポートなんかはわりと安価で多くの人がやりやすいし、やった気持ちにもすぐなれるインスタントな作業でみんな手を出す。みんながやる分テンプレートのように定型の表現が普及して、魯山人の随筆を100回くらいコピーしたようなテキストならもうAIで無限に生成できるんじゃないだろうかという状況になっている。そういう意味で食べログの記事は興味深い。「小生」とか「スローなブギ」とか、そういう検索ワードで出てくる文章を読むのは良い暇つぶしになる。

閉店してしまった葡萄屋は、あの建物どうなるんだろう、滝とかエレベーターとか残さないよな。入口のおじさんにも会えなくなるしなんていう飲食店とは直接関係ない存在の消失の方が気持ちとしては強くて、肉はまぁ他でも食えるんだけど、あのキムチはもう二度と食えないのかと思うと寂しい。辛いというより塩味が強めな日本の漬物っぽいキムチ。キムチは葡萄屋に限るなんてことは無いのだけど、人生でこの先あれにお目にかかることはきっと無いんだなと思うと残念だ。

そういう食い物はあっちこっちにある。